2024年4月29日月曜日

黄帝針経の基本としくみ(22)

 官針第七 法音

 

井滎分輸

 『太素』には「病が脈に在って,気が少なくて当に補うべきものは,鍉針を以て井滎分輸に取る」といい,「病が五蔵に在って固居するものは,取るに鋒針を以て,井滎分輸に瀉し,取るに四時を以てす」という。

井滎分輸とは何か。一般的には本輸篇の本輸の内から選ぶという。鑱針と員針に病所に取るというのと対称的に,病所からは離れた施術点である。この解は九針十二原篇の「微針を以て経脈を通じる」のと相応している。

したがって,井滎分輸とも病所ともいわない針も,実際には「病所に取る」が省略されているのだと考える。また通行本『霊枢』には「病在経絡痼痹者取以鋒針」とあって,鋒針に病所に取る用法を残している。

 しかし,どうして井滎分輸などという不思議な言いかたをするのだろうか。あるいは井滎合輸の誤りで,本輸篇の末にいうところの冬は井,春は滎,秋は合,夏は輸を取れという指示ではないか。ではどうして,井滎輸合として冬、春、夏、秋の順にしないのか。そうして順を互えた言いかたが,修辞法的に可能であるのを証明できるまでは,しばらく保留にしておこう。

 実際には井、滎、輸、合の替わりに,冬に骨髄、春に絡脈大経分肉の間、夏に孫絡肌肉皮膚の上,秋に(春の法の如く)絡脈大経分肉の間で代用していいのかも知れない。

 

九変に応ず

 輸刺は,諸経の滎輸(本輸篇の本輸)と蔵輸(背腧篇の背腧)で対を為す。また背部の背腧を近とし,下肢の合穴を遠として対と為す。

遠道刺は,府輸すなわち下の合穴を刺す。

 経刺は,大経の結絡を刺す。

絡刺は,小絡の血脈を刺す。

 分刺は,分肉の間を刺す。天回医簡の刺数に分刺はある。ここと同じものかどうかはもう一つはっきりしない。

大刺は,大膿を刺す。通行本『霊枢』は大写刺に作る。『太素』は大刺。

毛刺は,浮痹を皮膚に刺す。刺すところによる区別として,分刺、大刺、毛刺ということか。

 巨刺は,左は右を取り,右は左を取る。巨はおそらくは互の誤り。

焠刺は,燔針で痺を取る。

 

十二節  多数針

 複数の針を刺すか,あるいは複数回刺す。十二節の刺法の説明中に「直」字が登場するのが3分の2,傍字が出るのが4分の1。直は対象に素直にまっすぐ,傍は寄り添って,かたわらに。平らにとか解すべきを疑うのが数例。このあたりに解釈の鍵が有りそうに思う。

 一に偶刺は,心痺の痛みに直に前から一刺し,後から一刺する。前後に刺すので偶という。直痛所といっても,心に中てるわけではない。馬蒔の注に,「然して正取すべからず,須く斜針してもって旁刺するのみ」という。旁とは,心そのものを刺すわけではないことをいう。

 二に報刺は,痛みの箇所が一定しないで上下するものに,先ず痛む箇所を取りあえず刺し,刺したまま左手で上下に按じ,それから針を抜いて新たに痛む箇所を刺す。

 三に恢刺は,筋急を恢す。恢は,ひろげる。直刺してこれを傍らにし,これを前後に挙げて,筋急を弛め,筋痺を治す。

 四に斉刺は,小さいけれども深い寒気(あるいは痺気)に,直に一刺し,傍らに二刺する。斉は,そろう。あるいは参刺という。

 五に揚刺は,正内一,傍内四,しかしてこれを浮して,以て寒気の博大を治す。

 六に直針刺は,皮を引いてから刺して寒気の浅いものを治す。皮を引くとは,平らに刺そうというのだろうか。しかしそれでは直の意味がわからない。郭靄春は,直刺は互刺の文字の誤りではないかという。あるいはさらに平刺もしくは皮刺の誤りではないか。

 七に輸刺は,直入直出して邪を輸(おく)る。疾く針を抜いてこれを浅くして,久しく留める。郭靄春が原文の「深之」は「浅之」の誤りではないかという。これを取る。

 八に短刺は,揺るがせながら深くして骨の所まで達し,骨痺を摩す。摩は,ナデル,サスルだろうが,よくわからない。郭靄春は,短刺は豎(竪)刺の誤りではないかという。豎は,しっかり立てる,まっすぐ立てる。

 九に浮刺は,傍らに刺して浮かす。肌が引きつって冷えるものを治す。

 十に陰刺は,左右ことごとくを刺す。寒厥を治すのに,足の少陰を刺す。「十二刺は以て十二経に応ず」というのに当たりそうなのはこれのみ。

 十一に傍刺は,直刺,傍刺各一して,留痺の久しく居すわるものを治す。

 十二に賛刺は,直入直出,かろやかに針を刺抜して,患部から浅く出血させる。癰腫を治す。賛(贊)は鑚(鑽)で,錐(きり)の類い。

 用針の多くは毫針であろうと思われる。

 

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